厚生労働省は2026年10月21日、「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果を公表しました。1人平均賃金を引き上げた、または年内に引き上げる企業は92.0%。改定額は月額平均13,926円、改定率は4.4%でした。

ただし、この調査は常用労働者100人以上の会社組織の民営企業を対象としたものです。従業員数十人の会社を含めて「企業の9割が賃上げした」と断定することはできません。数字の読み方と、規模の小さな会社が賃金を見直す際の実務を整理します。

2026年の賃上げ調査で分かったこと

今回の調査は、常用労働者100人以上の会社組織の民営企業から3,668社を抽出し、1,862社の有効回答を集計したものです。2026年7~8月に調査を行い、年内の予定も含めて集計しています。

項目2026年2025年
賃金を引き上げた・引き上げる企業割合92.0%91.5%
1人平均賃金の改定額(月額)13,926円13,601円
1人平均賃金の改定率4.4%4.4%
100~299人規模の改定額(月額)11,279円10,264円
100~299人規模の改定率3.9%3.6%

「1人平均賃金」は、所定内賃金の1人当たり月額平均で、時間外・休日・深夜の割増手当や慶弔手当などの特別手当は含みません。月額13,926円は全従業員の給与が一律にその額だけ増えたという意味ではありません。

注意:本調査には常用労働者100人未満の企業は含まれません。また、改定率4.4%は法定の賃上げ率ではなく、個々の企業に同率の賃上げ義務が生じるわけでもありません。

小規模な会社は、この数字をどう受け止めればよいか

従業員数が数人~数十人の会社では、賃金原資、採用難、職種ごとの相場が大きく異なります。全国平均をそのまま賃上げの目標値にするのではなく、自社の最低賃金への適合、採用・定着の課題、給与体系の整合性を分けて確認することが重要です。

特に、地域別最低賃金の改定は、調査で示された「賃上げの動向」とは異なります。使用者は、最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法第4条)。地域によって発効日が異なるため、最新の都道府県別の金額と発効日を確認してください。

会社が確認したい5つの実務

1.最低賃金を下回る従業員がいないか

パート・アルバイトだけでなく、月給制の従業員も確認します。月給制では、最低賃金の対象となる賃金を時間額に換算して比較します。通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与、時間外割増賃金などは最低賃金の比較から除外します。就業場所と発効日も確認しましょう。

2.賃金表の逆転・接近が起きていないか

最低賃金に合わせて新入社員やパートの時給だけを引き上げると、勤続年数の長い従業員との賃金差が縮まる場合があります。職務、責任、経験に応じた賃金体系が保たれているかを点検します。

3.人件費の増加を年間で試算したか

基本給を月額5,000円引き上げると、従業員10人では基本給だけで年間60万円の増加です(5,000円×10人×12か月)。実際には、会社負担の社会保険料・労働保険料、賞与・割増賃金への影響なども考慮する必要があります。

4.採用時の賃金と既存社員の処遇が整合しているか

求人票の提示額を上げるときは、既存社員との説明可能な差になっているか確認します。正社員とパート・有期雇用労働者の待遇差については、パート・契約社員の労働条件通知書と同一労働同一賃金に関する解説も参考になります。

5.賃金改定の決定と説明を記録しているか

改定日、対象者、改定額、判断基準を整理し、労働条件通知書・雇用契約書・賃金規程・給与計算への反映を確認します。賃金表を賃金規程など就業規則の一部として定めている場合、その改定は就業規則の変更に当たります。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の意見を聴き、意見書を添えて変更後の就業規則を労働基準監督署へ届け出る必要があります。変更内容の従業員への周知も必要です。
また、基本給などの固定的賃金が変動すると、変動後3か月間の報酬や支払基礎日数などの要件によって、社会保険の標準報酬月額の随時改定(月額変更届)が必要になる場合があります。

まとめ|賃上げ率だけでなく、自社の賃金制度を点検

2026年の調査は、常用労働者100人以上の企業で賃金引上げが広く行われていることを示しました。一方、100人未満の会社の状況を直接示すものではありません。

中小企業がまず取り組むべきことは、最低賃金への適合確認、社内賃金バランスの点検、年間人件費の試算です。数字を参考にしつつ、自社の経営状況と人材確保の課題に合わせて検討しましょう。

賃金表の見直しや労働条件通知書の整備、給与改定に伴う労務管理の確認については、当事務所にご相談ください。

参考資料