どんな話?

国鉄の労働組合役員であったAさんら4人は、昭和44年の春闘の際、組合の指令で、職員ロッカー約300個に1、2枚ずつビラを貼り付けました。ビラの内容は、組合員の団結などをアピールする目的で「合理化粉砕」などと書かれたものです。国鉄は組合掲示板以外にそうしたビラを貼ることを禁止していましたので、それを見つけた駅助役などが止めましたが、Aさんらはそれに従いませんでした。国鉄はAさんらの行いが就業規則に反しているとして、懲戒処分(戒告)にしました。

Aさんらは「職員ロッカーにビラを貼ったくらいで、何で処分されないといけないんだ!」「仕事の邪魔はしていない。懲戒権の濫用だ!」と主張して、国鉄を訴えました。

争点

職員ロッカーにビラを貼ることが国鉄の業務に支障となっているかどうかや、職場環境を保持するために国鉄側が持つ「施設管理権」が、労働組合の活動をどのくらいまで制約できるのか、などが争点となりました。

第一審では国鉄側が、第二審ではAさんらの側が勝訴し、国鉄側が最高裁に上告しました。

判決は?

最高裁は、国鉄側の主張を認め、Aさんらの懲戒処分は有効となりました。Aさんらの行為は会社の許可もなくなされたことであり、また貼られたビラは、そのロッカールームを使う職員なら誰の目にも触れるような状態だったため、労働組合の活動に関する訴えかけが職員に及ぼす影響を考えると、国鉄側がビラ貼りを禁止しても、企業秩序の維持の観点からして、やむを得ないとしました。

したがって会社側の施設管理権の濫用とは認められないため、Aさんらのビラ貼り行動は正当な組合活動とは言えず、本件懲戒戒告処分は有効であるとしました。

いのしし社労士の解説

目黒電報電話局事件でも解説しましたが、要は、会社が持つ施設の所有権に基づく施設管理権は、労働組合が持つ団結権や団体行動権よりも強い、と最高裁が判断しているということです。

本判例によれば、職場の環境を保ち、規律のある業務運営を確保するためには、その目的以外に使ってはいけないという規則を作り、その規則を守るように従業員に指示・命令したり、守らない人には罰を与えるのは、使用者側の権利とされました。会社の施設を労働者がどのように利用できるかは、その会社での労働者の仕事の範囲内で、かつ会社の決まり事を守りながらでしかありえません。労働組合であっても、会社の施設を好き勝手に使って良い訳ではなく、使用者の許可があってのことであり、使用者との団体交渉などでの結果によって使える範囲が決まってきます。

使用者が施設管理権を濫用したと認められる特段の事情がない限りは、労働組合が会社施設を許可なく利用することは、認められないことになっています。最高裁はこのように、企業の施設管理権を広く認めていて、実際に労働組合が企業施設内で活動しようと思えば、使用者側の許可が必須だということになっています。実際には下級審などでは、前述した「特段の事情」を個別に判断して、労働組合の存在意義なども考慮した判例が出されているようです。

したがって実務上においては、もし企業内に労働組合がある会社ならば、使用者の権利濫用だと言われないように、労働組合と事前に施設利用のあり方について、協議を行っておくべきではないでしょうか。

関係条文

なし

学説など

学説では、施設使用に関して、受忍義務説、違法性阻却説、許諾説があり、受忍義務説が多数学説だとする。しかしこの判例は企業秩序の法的権利を抽象的かつ包括的に認める「許諾説」を採用しており、学界の多数意見のみならず、少数意見である「違法性阻却説」すらも考慮していないため、憲法が認めている労働組合の権利を実質的に否認させているのではという批判がある。下級審裁判例でも、原則としてこの判例に追随しているものが多いが、前述したように「特段の事情」に配慮した判例も出てきているとのことである(ミツミ電機事件、済生会中央病院事件東京高裁判決など)。

出典

 「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」