
どんな話?
滋賀大学の学生だったAさんは、昭和43年6月ごろ、大日本印刷の就職試験に応募。7月2日、5日の試験を経て、13日には内定をもらいました。当時大学では、推薦先を2社に限定していたため、別に応募していたダイキン工業を辞退しました。11月には会社から近況報告やパンフレットが送られ、Aさんにも近況報告を出すよう指示していました。ところが翌2月になり、突然会社側が理由も示さず、Aさんの内定取消を通知しました。
Aさんは従業員の地位確認、賃金支払い、慰謝料を求めて裁判を起こしました。
争点
会社側は、あらかじめ内定取消の要件として、以下の5つをあげていました。
(1)提出書類の記載内容に事実と相違があるとき
(2)過去、共産主義運動をしていたことがあるとき
(3)大学を卒業できなかったとき
(4)健康状態が悪化したとき
(5)その他の事由によって入社後の勤務に不適当と認められたとき
会社側は、採用内定は手続きの一過程に過ぎず、それから人物を改めて見極めたうえで、採用を決定することになるので、内定取消をするかどうかは会社の自由であると主張しました。さらに会社側は、Aさんは採用面接の際、「グルーミー(陰鬱)」な印象で、もともと採用に否定的だったが、体操部のマネージャーをするなどの経歴もあり、採用までに改めて人物を確認するために内定を出したことを明らかにしました。
第一審、第二審ともAさんが勝訴したため、会社側は最高裁に上告しました。
判決は?
最高裁でも会社側の上告が退けられ、Aさんの勝訴が確定しました。採用内定の法的性格は「解約権留保付労働契約」と解すべきであり、採用内定者は、試用期間中の労働者と地位的には変わらないとしました。その上で、内定の取消は、採用内定当時知りえなかった事実が明らかとなり、その事実を持って解雇することが客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と認められるものに限定されます。
今回、内定の取消理由が「グルーミー(陰鬱)」な印象だったからというのは、内定取消とするには社会通念上、認められるものではなく、解約権の濫用だとしました。
いのしし社労士の解説
試用期間中の解雇については、三菱樹脂事件でも解説しましたが、試用期間も採用内定も「解約権留保付労働契約」だとする最高裁の判断が定着しています。
どちらのケースも労働者の雇用を取消すには、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と認められるもの以外は無効となっていますので、個々のケースにより判断されます。三菱樹脂事件では、経歴を偽ったことが解雇の是非を左右しましたが、性格が「グルーミー」な程度では、あらかじめ面接で分かっていたことであり、採用内定を取消すことはできませんでした。もちろん前述した会社の5つの取り消し要件を充実することも可能ですが、その要件にしても公序良俗に反するような内容にしてはならないことは言うまでもありません。
どちらにせよ、採用するときの人物評価は慎重のうえにも慎重を期し、内定イコール採用という認識で、貴重な人材を選抜することが大事だと思います。
関係条文
特になし。解除、解約、予約、停止などのキーワードで、民法各条を参照してください。
学説など
採用内定の法的性格として、労働契約締結過程説と労働契約予約説があった。その後解約権留保付始期付労働契約説が説かれ、停止条件付労働契約説、解除条件付労働契約説などが主張されたが、学説の主流は解約権留保となっている。
裁判例としては、森尾電機事件、電電公社近畿電通局事件、東京都建設局事件、三菱樹脂事件、インフォミックス事件、帝京科学大学事件、オリエントサービス事件、富士電機冷機事件などがある。
出典
「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」





