
どんな話?
Aさんは、電電公社の目黒電報電話局で働く職員。昭和42年6月の約1週間、仕事中に「ベトナム侵略反対云々」と書いたプレートを胸に着けて勤務したところ、上司から取り外すように指示されました。しかしAさんはこれに従わず、なおも昼休みに職場の食堂で許可なく抗議のビラを配布しました。
公社はAさんの行為を就業規則違反だとして、懲戒戒告処分にしました。Aさんは、これを不服として裁判を起こしました。
争点
公社の就業規則では、職場内で政治活動が禁止されていました。また職場でのビラ配布も許可が必要でした。しかしAさんは、「プレートをつけたくらいでは政治活動とはいえない。」「仮に政治活動だとしても、就業規則で政治活動を規制するのは、政治的自由を定めた憲法に違反するではないか!」「休憩時間に何をしようと労働者の自由だ!」などと主張しました。
第一審はAさんの主張を認めて、公社側の敗訴、第二審も公社の控訴を退けました。
判決は?
最高裁は、第一審、第二審の判決を破棄して、公社側の逆転勝訴の判決を言い渡しました。判決は、プレート着用やビラ配布行動を政治活動と判断した上で、会社内で政治活動をすれば、従業員の間の政治信条の違いで対立したり抗争が生じるかもしれないし、休憩中の活動も、ともすれば他の従業員の休憩を妨げ、後の作業効率を乱す恐れがあります。
そのために政治活動を会社内で禁止する就業規則は、合理的な定めとして許されます。プレートを着用することも注意力の全てが職務遂行に使われない恐れがあり、他の職員への影響も無視できません。休憩中のビラ配布については、特別に職場の秩序風紀を乱す恐れがなければ問題はありませんが、今回のケースでは職場内の政治活動やプレート着用などの違法な行為をあおり、そそのかすこととなり、これら一連の行為は、明らかに就業規則に違反するとして、公社がAさんに下した懲戒処分は適法であると判断しました。
いのしし社労士の解説
職場内の政治活動については、「十勝女子商業事件」でも解説しました。この判例で注目されることは、職場内の「政治活動」とは「社会通念上政治的と認められる活動」として、その概念を広く解釈したことです。そうしたプレートをつけて仕事をした場合、状況によっては職務専念義務違反に問われる可能性があります。また、休憩の自由利用も無原則に認められるわけではなく、職場の管理規定に拘束されることが一定認められることを示しています。
職場内でビラ配布することについては違法性はないけれども、「特別の事情」がある場合には、就業規則に違反することがあるということも重要です。こうした状態が起こるのは、労働組合がある職場にありがちではありますが、近年の下級審の判例では、「特別の事情」を個別に判断して是非を決める傾向があるようです。したがって職場内で労働組合が政治的な活動をする場合、その方法やビラの内容などが職場の秩序を乱すかどうかが判断材料となることをこの判例は示しています。
関係条文
憲法第14条第1項(法の下の平等)、同第15条第1項(公務員の選定、罷免)、同第19条(思想及び良心の自由)、同第21条第1項(表現の自由)、労働基準法第3条(均等待遇)、同第7条(公民権行使の保障)、同第34条第3項(休憩の自由原則)
学説など
企業の包括的政治活動の禁止規定の容認論(労働者の企業秩序遵守義務)に対し、労働者の政治・文化活動(とりわけ労働組合活動)との調和を志向する「受忍義務」論がある。また政治活動への規制の根拠について「抽象的危険」論と「現実かつ具体的危険」論がある。
出典
「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」





