
どんな話?
第二鳩タクシーのドライバーだったAさんらは、労働組合活動を理由に、会社から解雇されてしまいました。Aさんらは会社の行為が「組合をつぶすことを目的とした不当労働行為だ!」として、労働委員会に救済申し立てをしました。解雇だ!と言われて仕事がなくなっていたAさんらも生活がありますので、救済命令が出るまでの間、別のタクシー会社でアルバイトをしていました。
労働委員会は会社に対し、Aさんらを元の職場に復帰させることと、解雇から復帰までの間に受けるはずの賃金相当額を支払うこと(バックペイ)を命じました。会社側は「解雇の期間中に働いて得た賃金(中間収入)はバックペイから差し引くべきではないか!労働委員会は横暴だ!」として、救済命令を出した労働委員会に対して裁判を起こしました。
争点
ノーワークノーペイの原則を超え、働いていないのに賃金相当額を支払う「バックペイ」は、労働委員会が出す救済命令によってなされます。労働組合法に定める不当労働行為(会社が組合の活動を違法に制限する行為のこと)をすみやかに正すことで、会社と労働組合の関係を正常に戻し、もって労働者の団結権や争議権を守ることが目的です。
そのために、労使関係について専門的な知識のある労働委員会には、組合と会社が争いになった時に広い裁量権が認められています。今回、労働委員会が出した、中間収入を差し引かないバックペイ命令が裁量権を超えているか否かが争われました。第一審、第二審ともに労働委員会の命令は、その裁量権を超えているという会社側の訴えを認めたため、労働委員会が上告しました。
判決は?
会社側の訴えが認められ、労働委員会側の敗訴が確定しました。
●労働委員会がなす救済命令制度 その趣旨や目的から認められる範囲を超え、または著しく不合理で裁量権の濫用と認められなければ、裁判所はこれを違法とするべきではありません。
●救済命令の内容 会社が不当労働行為を働いた場合、解雇した本人の個人的被害を救済するだけでなく、組合活動一般に対する侵害の面も考慮して、救済命令の内容を決定されなければなりません。
●中間収入の控除(個人的被害面) 中間収入が、解雇された時間の余裕で働いたものであるならば、それがよほど精神的肉体的にきついものでない限り、実害の回復以上のものとなるため、バックペイから差し引くのが相当です。
●中間収入の控除(組合活動侵害面) また組合活動への侵害の効果も、現実にAさんらが受けた打撃の重さと密接に関連しているので、再就職がしやすいかどうか、再就職先の仕事の中身や賃金などを見た上で、中間収入を差し引くかどうかを決めるべきです。
●結論 今回の労働委員会の救済命令は、これらの考慮を怠り、また救済の必要性についても合理性を欠いているため、裁量権の限界を超えて違法とされることになりました。
いのしし社労士の解説
この判例は、会社と組合の争いを見る「労働委員会」の役割や、労働組合法で定める不当労働行為救済制度の趣旨や目的を明らかにしたとして有名な判決です。この判例は大法廷判例でして、15人の裁判官が審理しています。判決には5人の反対意見がありました。ちなみに学説は本判例とは異なり、その反対意見が主流です。
労働委員会による救済命令の制度はアメリカの仕組を取り入れたものですが、日本とアメリカとでは労働事情ならびに法律制度が全く異なり、アメリカの労働組合は、職業別、産業別に連帯的に一つの組合を組織しており、労働者は自分に有利な職場を求めて比較的頻繁かつ容易に転職し、会社に所属するというよりもむしろ労働組合に所属しているとすらいわれているようなのです。
ですから、バックペイから中間収入を差し引くことは、アメリカでは当たり前なのですが、ここ日本においては、企業別組合の終身雇用制度が一般的であることから、一度会社を首になると容易に次の職場に就職することが難しく、また年功序列型賃金であることから、前と同じ額の賃金を受けることもなかなかありえません。ですから反対意見では、バックペイから中間収入を差し引くことは、当時の日本の労働慣行からしてなじまないし、組合活動の侵害という行為に対する不当労働行為の救済という趣旨からも外れるのではないか、というものでした。しかしタクシー業界の場合には、アメリカの労働事情と比較的似た環境にあり、Aさんらが受けた経済的打撃も比較的軽かったことが判決の中にもありますので、こうした判例が残されることになったのでしょう。
実際、この判例後においても労働委員会は、バックペイから中間収入を差し引かない救済命令を出すことが多いとされています。
関係条文
労働組合法第7条第1項、同法第27条、米国ワグナー法、タフト・ハートレー法
出典
「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」





