
どんな話?
JRがまだ日本国有鉄道(国鉄)だった時代の話。
昭和35年といえば三井三池闘争が行われ、「総資本対総労働」と言われるくらい激しい労使紛争が行われた時期です。また日米安全保障条約改定に反対する闘争も激化していました。国鉄の労働組合の一つ、国労広島地本(以下「国労広島」)では三井三池闘争や安保闘争を全面支援。三井三池闘争では、組合(炭労)側が無期限ストライキに入り、経営側もロックアウトで応じたため、炭労は活動資金に苦しむようになりました。また安保闘争でも組合員の犠牲などが生じたため、多額の資金が必要となりました。全国の労働組合が炭労や安保闘争にカンパを行い、国労広島でも「臨時組合費」という名目で組合員から活動資金を徴収しています。
しかしそうした活動は一方で反感も買っており、実際に組合に嫌気が差したAさんたちは、国労広島から脱退することにしました。しかし組合に属していたときの一般組合費と臨時組合費が未払いとなっていて、国労はAさんらに「組合費納入は組合員の義務だから、脱退したからといって払わないことは許されない」として、裁判を起こしました。
争点
今回の裁判で問題となった組合費は一般組合費のほか、臨時組合費として
(1)三井三池闘争支援資金(炭労資金)
(2)安保闘争資金
(3)政治意識昂揚資金(特定政党寄付)
など、でした。
一般組合費については第一審、第二審とも国労広島の請求が認められましたが、(1)と(3)については、組合活動の目的を超え、個人の思想信条に反するとして、認められませんでした。
国労広島、Aさんらはともに最高裁に上告しました。
判決は?
労働組合の組合員は、組合が正しく手続きを取って決定した活動については、それに参加する義務や妨害行為をしない義務を負い、活動のための組合費を支払う義務があります。労働組合は本来の目的である労働者の生活利益の向上を超え、政治的・社会的・文化的活動を行うようになっています。それらの活動が本来目的を超えているからといって、組合がしてはならない活動だとすることはできません。
とはいえ、そうした活動すべてが組合員にただちに強制できるわけではなく、組合組織としての考え方と組合員個人の基本的利益を比較して、合理的な限定を加えることが必要です。
(1)については、労働組合の広い活動範囲を他の労働組合と協力して行う必要があるため、資金援助は認められます。
(2)については、政治的色合いは強いけれども、その資金の使途は安保闘争で組合員が受けた損害の救援に使われるため、認められます。
(3)については、組合員個人の思想信条に深く関わるため、組合が選挙活動を推進することは自由ですが、組合員に強制することは許されません。
とそれぞれの資金について、最高裁として独自に判断しました。
いのしし社労士の解説
この判例のタイトルだけを読んだときは、「面白くなさそうな判例だなぁ」とちょっと後ろ向きでしたが、読み解いていくうちにとても奥の深い判例だと思うようになりました。実際、ネットでも多くのサイトで取り上げられている重要判例です。中里鉱業所事件(第9回で解説)でも労働組合と政治活動の関係が判じられていますが、組合が政治活動をすることは、広く組合活動の一環として認められています。
しかしそれを組合員に強制することは、思想信条の自由に反するとして禁じられています。この判例でも同様の解釈に基づき、一つ一つの資金について、その政治性の濃淡により組合費の徴収の是非が判断されています。最高裁では、労働組合の活動範囲について相当広く認めており、直接、選挙に関わる政治活動以外は、組合員が組合の決定に従う義務があるとみなされています。
労働者の8割以上がすでに労働組合とは縁もゆかりもなくなってしまいましたが、それでも労働組合の法的位置づけというのは、未だに強固なもののようです。
関係条文
特になし。
学説など
組合費納入義務が法的義務であることは、判例・学説ともに一致している。納入根拠については、規約または組合決議に基づく見解、労働組合の統制機能に求める見解、社団法理に求める見解がある。臨時組合費についても同様に法的義務であるという見解は確立されている。
出典
「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」

