どんな話?

茨城石炭商事は、資本金800万円の株式会社。50人の従業員や20台の業務用車両を有し、石油・石炭・プロパンガスなどの輸送や販売をする会社です。

そこで働くAさんは、小型貨物の運送に従事する従業員でしたが、昭和45年1月、臨時的にタンクローリーの運転を命じられました。通行する国道は渋滞しはじめ、ついにAさんは急停車した前方の車に追突してしまいました。車間距離を開けず、前方不注意だったことが原因です。そこで会社はAさんに対し、損害の全額(前方車の修理費用などの損害賠償分、会社車両の修理代、車を休ませた分の補填費用など)約40万円を請求しました。

Aさんは、「確かに車をぶつけた私も悪いけれど、そんな多額の請求には応じられない」として支払いを拒否。会社はAさんを訴えました。

争点

従業員が業務上で起こした事故による損害を、どのくらいの範囲で従業員に請求することができるかが争われました。第一審、第二審ともに請求額の4分の1を認め、それ以外の額については、信義則に反しているとして、認めませんでした。会社側は全額賠償するよう、上告しました。

判決は?

従業員が業務上の事故で、会社に損害を与えた場合には以下の事情が考慮されます。

(1)事業の性格、規模、施設の状況
(2)従業員の業務の内容、労働条件、勤務態度
(3)事故の様子
(4)事故防止もしくは損害を分散させるための会社側の配慮の程度
こうした事情に照らし合わせて、なお従業員が被害を分担すべきであると信義則上認められる限度において、従業員に対して損害賠償を請求することができます。

今回の場合には、
(1)会社がこのタンクローリーに対物賠償保険や車両保険を経費削減から掛けていなかったこと、
(2)タンクローリーの運転が、Aさんの主な仕事ではなかったこと、
(3)事故の一因が渋滞による前方車の急停車だったこと、
(4)Aさんの給与が4万5千円であること、
(5)勤務成績も普通以上であったこと
から、賠償額は4分の1が妥当だとして、会社側の上告を棄却しました。

いのしし社労士の解説

まず、民法第715条の条文を確認してみます。読むのが面倒な人は、さらっと流してください。

「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 」

長いですね。

要するに会社は従業員が仕事をしていて他人に対して損害を与えたときは、原則として会社側が損害賠償責任を負いますよーと書いてあるのです。ただ同じ条の第3項で、会社は従業員にその損害分を請求してもいいですよとも書いてありますので、その流れで会社はAさんに損害を請求したわけですね。

しかし裁判所は、従業員に損害賠償を請求できる場合を判決のとおり制限し、全額の賠償を認めなかったことに、この判決の意義があります。逆にみれば、会社側がタンクローリーにきちんと保険をかけ、Aさんにタンクローリー運転の教育をきちんとしていたにも関わらず、Aさんの故意や重大な過失でこうした事故が発生したならば、Aさんの賠償金額はまだ大きかったということになりますね。そういう視点でみれば、会社の従業員教育というのがいかに重要か分かるかと思います。

関係条文

民法第709条(不法行為による損害賠償)、同第715条(使用者側の責任)、

学説など

被用者に対する使用者の求償権の法的性質及び制限は、使用者・被用者の内部関係の問題として捉えるのが通説となっている。使用者・被用者間に契約関係があれば、被用者の債務不履行、なければ不法行為に基づく損害賠償請求権となる。民法第715条第3項の規定について、注意規定説と権利根拠規定説があり、注意規定説が通説的立場となっている。

出典

 「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」