どんな話?

Aさんは創価学会の会員さん。当然、公明党(当時は公明政治連盟。以下「公明党」)支持。
ところが加入していた労働組合が民社党の立候補者を推薦し、守らない人は処分しますよと決議しました。

しかしやはりAさんは公明党を支持したいので、ポスターをとある場所に張り出してしまいました。組合は、Aさんを所定の手続きを経て除名。Aさんは「ポスターを貼ったっていいじゃないか。どこの政党を支持しようと自由だろ!」と除名処分の無効を求めて裁判を起こしました。

争点

労働組合は、労働条件を経営者と交渉するだけではなく、その生活レベルを向上させるために政治活動や選挙活動を行うことが、判例(三井美唄事件)で認められています。しかし、加入している組合員の個人的な政党支持をしばることがはたして認められるのでしょうか。

第一審、第二審ともにAさんが勝訴。組合側は最高裁に上告しました。

判決は?

労働組合が選挙の時に、政党支持に反することをした人に対して、組合決議を守るように勧告したり説得したりすることは、組合組織を守るために許されます。

それでも従わない人に対して、除名などの処分をすることは、やりすぎだとして認められないと判断。組合の上告を棄却、Aさんの勝訴が確定しました。

いのしし社労士の解説

どっちの気持ちもわかるんですよね。組合側から見たら「公明党を支持するのは仕方ないかも知れないが、ポスターまで張らなくても」だろうし、Aさんから見たら「いくら組合といっても、個人の思想信条を踏みにじる権利はないだろう」という気持ちの対立です。

個人的な感想をいえば、もしこの組合がユニオンショップ(会社に入ったら必ず組合加入しなければならない決まり)であれば、除名=クビですから、決議違反で除名というのは酷だろうと思いますが、オープンショップ(組合加入は自由)だったら、Aさんは組合を脱退して政治活動を行うべきじゃなかっただろうかと思います。

労働組合だけじゃなくて、会社にしてもそうだと思いますが、ある組織に属する以上は、一定の決まりごとは守らないといけないんじゃなかろうかと。

しかし思想信条や政治活動の自由は、基本的人権の最大限尊重すべき部分に属していますから、一般的な組織のあり様で議論すべきものではないのかも知れません。いずれにせよ、判例は明確に個人の政治的自由を認め、組合のしばりはそこまでは及ばないとしましたので、そこに議論の余地はないのは言うまでもありません。

関係条文

憲法第15条第1項(公務員の選定・罷免権)、同第28条(労働3権)

学説など

労働組合の統制権の根拠について(1)団体固有権説、(2)団結権説、(3)2つの折衷説がある。

また、政党支持決議の効力について(1)絶対無効説、(2)具体活動含有無効説、(3)決議事実確認説、(4)制限付有効説、などがある。

出典

「別冊ジュリスト労働判例百選」