公民権の保障〜十和田観光電鉄事件〜

十和田観光電鉄事件ってどんな話?

十和田観光電鉄で働くAさんは、労働組合の委員長。組合専従者として、勤務を免除されていました。十和田市では、昭和34年4月に市議会議員選挙が予定されていました。Aさんは、地元の労組役員のみんなから、市議会議員にと推薦され、立候補することになりました。Aさんは、会社の主だった人々に立候補することの申し出と了解を求めました。社長は、一応文書で提出するように求め、Aさんは、それに応じました。Aさんはこの選挙で、無事トップ当選を果たしました。選挙後、社長に議員就任と、就任中の休職扱いを申し出ました。ところが会社は、これら一連の活動が会社の了解を得ないで行ったことだとし、就業規則の「会社の承認を得ないで公職に就任したときは懲戒解雇にする」旨の規定に基づいて、Aさんを懲戒解雇しました。Aさんは、「懲戒解雇が無効」であることと、「雇用関係が続いている」ことを確認する訴えを起こしました。

十和田観光電鉄事件の論点

労働基準法第7条(以下、労基法)は、使用者(会社)は、労働者(従業員)が公民権行使、公の職務の遂行は拒むことができない旨を定めています。今回のAさんの活動が公民権の行使や公の職務の遂行にあたることは明らか。こうした会社の就業規則が労基法に違反しているかどうかが争われました。1、2審で会社は敗訴。会社はAさんが議員になることで、会社の業務が著しく滞ることが問題だとして、最高裁に上告しました。

十和田観光電鉄事件の判決は?

最高裁でも会社は敗訴しました。公職に就任することを届け出事項にするだけでなく、それにあたって会社の承認を得なければ懲戒解雇にするという就業規則は、労基法第7条の趣旨に反していて無効だと認定しました。(最高裁昭和38年6月21日第二小法廷判決)

いのしし社労士の解説

解雇というのは、今も昔も一番議論になるところです。この判例も、ネット上ではさかんに取り上げられています。解雇については、労働契約法で客観性、合理性、社会通念などが基準だと定められました。法改正以前は、裁判例の積み重ねで有効・無効の解釈をしてきました。で、この事件の場合には明確に無効だと判断されたことになります(言うまでもなく、無効とは「最初からなかったことにする」という意味。「取消し」と勘違いしやすいので気をつけて)。

通達では、例えば、(1)選挙の投票の際は賃金をカットしないことが望ましい、とか、(2)いくら就業規則で「投票は労働時間外で」と定めても、労働者が時間中に投票を求め、それを拒んだら違法だ、とかがあります。

もし、この規定に違反すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。いわゆる「公的な活動」に関しては、会社はできるだけ緩やかに解釈しないといけないような流れになっているのではないでしょうか。

下級審ではありますが、(1)公職に就いたために、労働関係が維持できなくなれば、解雇が禁止されるものではない、とされた判例や、(2)公共団体の公務員になったことで、労働契約上の義務が果たせなくなり、業務に支障が出るような場合には、休職や解雇については、公民権保障の規定に反するものではない、とした判例もあります。

要するに、公民権行使そのものを理由に「クビだ!」と言ったら違法ですが、公民権を行使することで会社の業務に大きな支障が出る場合は、ケースバイケースで考えましょうということだと思います。労働組合がある会社では、このような事例は現在でも起こり得ますから、この判例、知っていて損はないですね。ちなみに【学説】の欄に公的な活動の例を列記していますので、参考にしてください。

関係条文

  • 労働基準法第7条(公民権行使の保障)、同第119条(罰則) 

学説

特になし。※公民権の行使の例(選挙権・被選挙権、最高裁判事国民審査、特別法の住民投票、憲法改正の国民投票、地方自治法の住民直接請求、選挙人名簿の登録の申出、民衆訴訟、選挙人名簿、選挙または当選に関する訴訟)公の職務の例(議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、労働委員会の証人等、選挙立会人等。予備自衛官が防衛召集や訓練召集に応じるなどの、いわゆる単に労務の提供を主目的にする職務はこれには含まれません)。
参考文献:「別冊ジュリスト労働判例百選」