どんな話?

昭和40年7月13日のこと。自衛隊の車両整備をしていた隊員のAさん。整備中に別の隊員が運転していた大型自動車に轢かれて即死してしまいました。

Aさんの両親は「業務上、注意すべき義務を怠ったことが事故の原因。Aさんが亡くなったことで失った利益と慰謝料を支払え」と裁判を起こしました。

争点

民法第724条では、不法行為の消滅時効を3年と定めています。国はこの事故を不法行為ととらえ、時効が成立していると主張。Aさんの両親は、国は安全に仕事の出来る環境をつくるべきとして「安全保証義務」を主張、義務をまっとうしなかった国は損害賠償義務を負うとして、債務不履行の消滅時効10年を主張しました。

第一審、第二審ともに不法行為の消滅時効を認めて国が勝訴。Aさんの両親が上告しました。

判決は?

使用者は労働者に対して、生命及び健康などを危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)があります。実際、どのような配慮をすべきかは、それぞれの状況により個別に判断されます。

安全配慮義務は「特別な社会的接触」の関係に入った当事者間において、その法律関係に付随する義務として当事者の一方または双方が相手方に対して「信義則上」負う義務だとし、Aさんの上告を認めて、第二審の判決を破棄、再度、第二審に差し戻しました。

いのしし社労士の解説

現在、安全配慮義務は人を雇う上で必ず考慮しなければならない重要なリスクの一つとなっています。少し長くなりますが大事な判例ですので、やや丁寧に説明させていただこうと思います。

安全配慮義務にはいくつかの分類があります。
①物的環境的危険防止義務
②作業内容上の危険防止義務
③作業行動上の危険防止義務
④寮・宿泊施設における危険防止義務
⑤健康管理義務、などです。

「特別な社会的接触の関係」って難しいですが。安全配慮義務の有無を判断する上で必ず求められる関係です。具体的には雇用関係にとどまらず、元請業者と下請業者にも当てはまります。さらには学校と児童・生徒などの雇用関係以外にも適用される理論だとされます。

また安全配慮義務違反を立証する責任(立証責任)は、被災労働者側、遺族側にあります。安全配慮義務はそこそこの職場の具体的実情により判断されますが、労働安全衛生法に基づく様々な義務が参照されます。また違反の成立には、その義務を果たさなかったら危険かも知れないとあらかじめ知っていること(予見可能性)が必要です。業務上有用だけれども、危険もあるような機械を使った事故であっても、あらかじめ誰が見ても仕方ないなと思えるような安全措置を講じていれば、安全配慮義務は果たしているとみなされます。安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任は期限のない債務とされます。また被災労働者にも事故の責任があった場合には、その損害分の金額が支払賠償額から差し引かれます(過失相殺)。

以上、だらだらとお話ししましたが、安全配慮義務違反による損害賠償は、自動車事故と同じくらい多額になることも多く、労災に上乗せする保険などでリスクを移転したり、予測されるリスクを軽減するために安全講習を行うなど、出来るだけの配慮を行う必要があります。またそうすることで結局は業務効率も向上することが多く、業務改善を含めて検討してみてはいかがでしょうか。

関係条文

自動車損害賠償保障法第3条(自動車損害賠償責任) 、民法第167条第1項(債権等の消滅時効) 、同第412条第3項(履行期と履行遅滞) 、同第418条(過失相殺) 、同第709条(不法行為による損害賠償) 、同第722条第2項(損害賠償の方法及び過失相殺) 、同第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限) 、労働安全衛生法第71条の2(事業者の講ずる措置)、同第71条の3(快適な職場環境の形成のための指針の公表等)

学説など

この判例以降、安全配慮義務については多数の判例が出されている。事件名のみ記載すると、川義事件、大石塗装・鹿島建設事件、三菱重工業神戸造船所事件、航空自衛隊航空救難群芦屋分遣隊事件、陸上自衛隊第331会計隊事件、陸上自衛隊朝霞駐屯地事件、システムコンサルタント事件、川崎製鉄(水島製鉄所)事件、電通事件、林野庁高知営林署事件、横浜市立保育園事件、東加古川幼児園事件、日鉄鉱業事件、呉服販売会社事件、厚生農協連合事件など。

出典

「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」