
どんな話?
Aさんは55歳で会社の主任さん。働いている秋北バスは、50歳で定年と就業規則に定めていました。しかも主任以上には定年が適用されていません。いつまでも勤められるなぁと安心して働いていたところでした。
ところが!会社は昭和32年4月1日に就業規則を改正、主任以上の人は55歳で定年ですよーと、勝手に決めてしまいました。
Aさんの元には、会社からの退職通知。Aさんは「そんなばかな!勝手に就業規則を改正しておいて、クビはないだろ!」として、改正の無効などを求めて裁判を起こしました。
争点
この就業規則の改正は、Aさんにとっては、晴天の霹靂で不利益な変更です。労働条件は原則として、使用者と労働者が対等の立場で決定するものですから、一方的に不利益変更は出来ません。
第一審は不利益変更は労働者の同意が必要として、Aさんが勝訴、第二審は就業規則の制定・変更は使用者が一方的にできるとして、会社側勝訴となりました。
判決は?
最高裁は、合理的な労働条件を定めた就業規則であれば、それは秋北バスとAさんを含む従業員の間では「慣習」として成立していると認定。Aさんを含む従業員が就業規則を知っていたかどうか、また同意したかどうかは、この際関係なく、当然に適用されることになると明示。
就業規則は従業員全体に統一的に画一的に決められるものなのだから、その中身が合理的であれば、従業員は就業規則の適用を拒否することは許されないとし、Aさんの敗訴が確定しました。
いのしし社労士の解説
簡単に言うと、むちゃくちゃ変な内容じゃなかったら、ある程度、会社が一方的に就業規則を変更してもいいですよという判例です。例えば、保険の約款とかが一方的に変更されていても、何にも言えないですよね。この判例は、それと同じ考え方に立っています。要は「就業規則を守るか、辞めるかどっちかで」ということです。
この判決によって、実務上は、ほぼ定着をしたのですが、学説では、「4派13流」などと言われ、就業規則の法的性質については、多様な議論がされていました。昨年、労働契約法が成立したことにより、ついに判例を追認した法制度が整備され、理論的にも決着したことになります。
ちなみに「慣習」とは、立派な法律用語です。いつもしている事柄がみんなの当たり前になれば、法律と同じだと言う決まりがあるのです。例えば水利権などは法律に定められる前に、慣習で決められていて、それが法律と同じ効力を持っています。
それでは就業規則について解説。就業規則とは、会社と従業員の間の決まり事で、労働基準法で定められています。常時10人以上の労働者を使用する会社では、必ず定めて、労働基準監督署に届け出なければなりません(法第89条)。
就業規則には「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」というのがあって、例えば(1)就業時間、休日、休暇など労働時間に関する事(2)賃金に関する事(3)解雇を含む退職に関する事は、絶対に就業規則に載せないといけません。他に(4)退職手当、(5)臨時の賃金(6)食費、作業用品の負担(7)安全、衛生、(8)職業訓練、(9)災害補償や業務外での病気、けが、(10)表彰及び制裁、などについては、その決まりが会社にあるのであれば、就業規則に載せないといけません。
逆にいえば、(4)から(10)までは決まりがなければ、別に載せる必要がないということです。就業規則を作ったり変えたりするときは、労働者の過半数の代表者(過半数で組織する労働組合でもよい)に意見を聴かなければなりません(法第90条)。
法律における就業規則の位置付けは、法令・労働協約>就業規則>労働契約となっていて、就業規則は労働協約に違反してはならないし(法第92条)、就業規則以下の労働条件の契約は無効となります(法第93条)。
関係条文
法の適用に関する通則法第3条(法律と同一の効力を有する慣習)
民法第92条(任意規定と異なる慣習)
労働基準法第89条~93条(就業規則)
同第106条第1項(法令等の周知義務)
労働契約法第9条~10条(就業規則による労働契約の内容の変更)
学説など
法規説・・・就業規則それ自体が法規範として拘束力を持つとする説。大きく「経営権説」と「授権説」に分かれる。
契約説・・・就業規則は労働契約の内容になることによって初めて法的拘束力を持つとする説。大きく「純粋契約説」と「事実たる慣習説」に分かれる。
同判例は普通契約約款に関する法理論を就業規則に応用したものとする説が有力。
出典
「別冊ジュリスト労働判例百選」





