
どんな話?
三菱樹脂に採用されたAさん。実は学生時代に学生運動をしたり、大学生協の役員をしていました。だけど、採用試験のときに、試験官にそれを隠し、また身上書にもそうした内容を記載していませんでした。
それを知った会社側は、3ヶ月の試用期間終了直前に、Aさんの本採用を拒否してしまいました。Aさんは、本採用拒否は不当だ!として裁判を起こしました。
争点
論点は2つあって、ひとつは試用期間後の採用拒否が解雇に当たるかどうかですが、これは次回に説明します。今回の論点は、Aさんが学生時代に学生運動をしたり、大学生協役員をしていたということでもって、採用を拒否できるのか、いわゆる思想信条の自由に反しないかということです。
第一審は、試用期間後の採用拒否を解雇権の濫用としてAさん勝訴、第二審は、Aさんの政治的思想、信条で採用しないということは、憲法第14条に違反し、公序良俗に反しているとして、これもAさん勝訴となりました。
判決は?
憲法で定める平等や自由の考え方は、国や地方公共団体と個人の間で成り立つものであり、個人と企業の間では直接の関係はないとしました。その上で、あまりにもひどい差別があれば、国会で法律を作るなどして直接規制するか、あるいは民法などで個人と企業の間を調整することになります。憲法では思想信条の自由や法の下の平等を定めてはいますが、同時に財産権や経済活動の自由なども基本的人権として保障していますので、企業がどのような人物を採用するかどうかは、法律に特別の決まりがない限り、企業が自由に決めていいものとしました。
したがって、企業が従業員を採用する際に、思想信条の調査を行うことも違法ということはできないし、Aさんが思想信条について会社に正直に言っていなかったことをもって、本採用を拒否するというのは、法律に反しているとはいえません。として、一度裁判を第二審に差し戻しました。
差戻審ではAさんと会社で和解が成立し、Aさんは職場復帰しました。。
いのしし社労士の解説
この判例は昭和40年代の学生運動が盛んだったころに出されたもので、今の時代背景とはかなり異なっていることを認識しておくべきでしょう。
実際、男女雇用機会均等法や障害者雇用促進法、雇用対策法などで、採用時に性別や障害、年齢などで差別を禁止する法律が出来てきています。またILO第111号条約(日本は未批准)でも採用時の差別は禁止されています。さらに厚生労働省が平成12年に出したガイドラインでも、思想信条は収集してはならない情報としています。
昔ならいざしらず現代日本において、業務上明らかに都合が悪い(たとえば某政党職員になるのに、その政党以外の支持者を採用することは考えにくい)場合を除いて、こうした採用差別を行い、それが明らかになってしまえば、法的にはともかく企業イメージを大きく損なうことは考慮しておく必要があると思います。
関係条文
憲法第13条(個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重)、同第14条第1項(法の下の平等)、同第19条(思想及び良心の自由)、同第22条第1項(居住・移転・職業選択の自由)、同第27条第1項、第2項(労働の権利・義務、労働条件の基準、)、同第28条(労働者の団結権・団体交渉権その他団体行動権)、同第29条(財産権の保障)、民法第1条(基本原則)、同第90条(公序良俗)、同第96条(詐欺又は脅迫)、労働基準法第3条(均等待遇)、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第5条(性別を理由とする差別の禁止)、障害者の雇用の促進等に関する法律第3章(身体障害者又は知的障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等(第37条~))、雇用対策法第7条(事業主の責務)、ILO第111号条約(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約)、
学説など
採用の自由の制限について、判例は間接適用説(憲法の直接的な適用を認めず、採用条件が労働基準法第3条の労働条件には当たらないとする説)だが、学説はこの判例にはおおむね否定的で、公序良俗違反について、もっと丁寧に検討されるべきだったという考え方がある。
出典
「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」





