細谷服装事件ってどんな話?
Aさんは、洋服の製作修理の会社に勤めていました。その当時、1ヶ月のお給料は1万円。ところが昭和24年8月4日のこと、その会社が、突然、一方的にAさんを解雇通告してしまいました。その日に辞めろ(即時解雇)ってことですから、当然、労働基準法第20条に定められた30日分の解雇予告手当を支払わないといけないのですが、会社はこれを支払いませんでした。Aさんは、約7ヵ月後の昭和25年3月、未払給料と予告手当の支払いを求めて、横浜地裁に提訴しました。ところが、ところが。その会社も食わせ者。約1年後の口頭弁論最終日の昭和26年3月19日に、さかのぼって昭和24年8月分1か月分の給料と30日分の解雇予告手当、それと遅延利息、合計20,630円をAさんに支払っちゃったんですね。びっくり。Aさんは、今さらそんなもん支払われても、昭和24年8月4日の解雇は労基法に違反しているから無効だ!解雇予告義務違反の付加金も払え!と争った事件です。
細谷服装事件の論点
当然、会社側は「すでに労基法第20条の解雇予告の規定は満たした」んだから、解雇は有効でしょ?それなら当然、付加金も支払わないでいいでしょ?という主張をしました。
細谷服装事件の判決は?
結局、10年以上も争って、Aさんの上告棄却、すなわち敗訴となりました。会社側の主張どおり、昭和24年8月4日当日の解雇はだめだけど、30日経過後の昭和24年9月3日時点では、解雇は有効になったと判断しました。要するに、即時解雇は当然認められないが、会社が即時解雇にこだわらなければ、労基法第20条で定められた予告後30日の経過か、予告手当の支払った時のいずれかのときから解雇は有効だということです。
いのしし社労士の解説
この判例、インターネット検索でもむちゃくちゃヒットが多く、平成18年度の社会保険労務士試験でも出題されています。労務人事管理には必須の判例です。ちなみに、そもそもAさんがなぜ解雇されたのかについては、いろいろネットで探してみましたが見つかりませんでした。もちろん、この判例の論点はそこにはないからなのですが。
この判例で論点となっているのは、解雇通告をしたその時に、労基法第20条違反をしていたら、どんなにあとから予告手当を支払おうとも、解雇は無効じゃないのか?というところにあります。確かに第20条のどこにも「違反したら無効だよー」とは書かれていません。ですから学説も4つに分かれています。学説上は、「解雇無効を主張して復職を目指す」か「解雇を認めて予告手当と付加金を請求する」かを選ぶ選択権説が支配的ですが、裁判実務や行政通達上は、この判例の相対的有効説が現在でも生きています。
経営上や人事労務管理上、やむを得ず解雇しないといけないときもあろうかと思います。有効な解雇をするためには、トラブルを未然に防ぐ意味でも、解雇予告は最低限の決まりであり、これを守ることが大前提であることは言うまでもありません。
関係条文
- 労働基準法第13条(この法律違反の契約)
- 同第20条(解雇の予告)
- 同第114条(付加金の支払)
- 民法第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
学説
解雇予告の規定に反する解雇については、有効説、無効説、相対的有効説、選択権説があります。
参考文献:「別冊ジュリスト労働判例百選」