どんな話?

横浜ゴムで働くAさんは工場で働く作業員。昭和40年8月1日のことです。Aさんはあろうことか、酒に酔って他人の家に忍び込んでしまいました。
見つかったので慌てて逃げましたが、すぐに警察に捕まりました。住居不法侵入ということで、当時の金額で2,500円の罰金刑です。

ところが、この行いがいつの間にか周囲に噂となって広がってしまったのです。会社は「不正行為によって会社の対面を著しく汚した」として、就業規則に基づいて、9月17日にAさんを懲戒解雇。
Aさんは「やったことは悪いけど、会社にそこまでの迷惑はかけていないではないか。クビはやりすぎだ!」として裁判を起こしました。

争点

Aさんの行為が、会社の信用を大きく損ね、会社に損害を与えたかどうかが争点です。横浜ゴムは当時経営状態が悪く、Aさんの工場も閉鎖の噂が出ているところ、会社側は従業員教育の徹底を図っているところだっただけに、会社側の衝撃も大きかったようです。

しかし、第一審及び第二審ともにAさんが勝訴。会社側が上告しました。

判決は?

会社の当時の状況から見て、懲戒解雇に至った判断も無理のないところではあります。

しかし、(1)Aさんの行為は全くの私生活の中での出来事であること、(2)2,500円程度の軽い犯罪であったこと、(3)Aさんの会社での地位も工員であって、指導的役割のものでなかったこと、などから、Aさんの行為で会社の対面が著しく汚されたとまでは言えない、として会社側の上告を棄却。

Aさんの勝訴が確定しました。

いのしし社労士の解説

Aさんの行為が会社の対面を著しく損ねたかどうかは、判断の分かれるところです。現にこの最高裁判決でも、松本正雄裁判官は「クビも当然」として、反対意見を述べています。

ちなみに、この判決では一般的な判断基準が出されていませんが、その後の同様の裁判で、懲戒に付すべき判断基準が示されています(最判昭49.3.15日本鋼管事件)。

これによると、

(1)どんな不正行為だったか、情状酌量の余地はあるか
(2)どんな業種の会社か、大きい会社か
(3)世間的に影響力のある会社か
(4)従業員はその会社の中でどんな仕事をしていたか、地位は高かったか、

に照らして、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大だと客観的に認められる場合でなければならない、とされています。

また、労働契約においても、会社のために働く義務と同時に、「会社の秩序を守る義務」も課せられる(最判昭58.9.8関西電力事件)ことになっています。ですから、従業員が何かとんでもないことをやらかして、それがマスコミ沙汰になったり、会社が非難を浴びるようなことになってしまえば、会社の秩序を乱したとして解雇もやむを得ないということになります。もちろん就業規則で賞罰規定がきちんと定められていることが、懲戒処分の前提なのは、言うまでもありません。

関係条文

とくになし。

学説など

継続的契約関係の維持困難による普通解雇対象説、労働者の規範意識に支えられた共同作業秩序に限定して例外的に懲戒が認められる説、具体的損害の発生等が明らかな場合のみ懲戒が認められる説、などがあります。また公共企業体においては、私生活の行為については、広くかつ厳しい制限があると判断されています。 

出典

 「別冊ジュリスト労働判例百選第7版」