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「直接払いの原則と退職金債権の譲渡~小倉電話局事件~」
最高裁昭和43年3月12日第三小法廷判決。
【どんな話?】
AさんとBさんは、電電公社小倉電話局で働く恋人同士。ところがある日Aさんは、あろうことか、Bさんに薬を飲ませて体の自由を奪った上、乱暴してしまいました。
怒ったBさんはAさんに償いを求め、弁護士立会いの元で、200万円の贈与と、もしお金が工面できない時は退職金で支払うことで合意しました。
Aさんはお金を工面できなかったので、電電公社に「私の退職金のうち、200万円分はBさん(の弁護士)のものですよ」と通知しました。
ところがやっぱりAさんの気が変わって、電電公社に「Bさん(の弁護士)に退職金200万円分を渡すのは取り消します」と通知して、退職金の支払を請求したため、電電公社はAさんに260万円を支払いました。
驚いたBさんは、電電公社に対し「Aさんの退職金は自分の権利だ、退職金を自分に支払え」と、裁判を起こしました。
【論点】
通知を取り消したとは言え、退職金を受ける権利はすでにBさんにあります。権利のないAさんに退職金を支払う法的根拠についてが最大の争点です。
1、2審とも、Bさんが敗訴。理由は、賃金の「直接払いの原則」でした。
【判決は?】
判決はいくつかのフェーズに分かれています。箇条書きが分かりやすいのでそうします。
1.退職金の支払いが法律(国家公務員等退職手当法)にきちんと定められている以上、退職金=賃金である。
2.賃金には直接払いの原則(労働基準法第24条第1項)が定められている。
3.退職金を受ける権利(賃金債権)を譲渡すること、そのものについては、無効ではない。
4.しかし、賃金の直接払いの原則は罰則もある強い規定だから、賃金債権を譲り受けたからと言って、退職金をBさんに渡すことはできない。もちろん支払いを求めることもできない。
となり、Bさんの敗訴が確定しました。
【いのしし社労士@霞雲の介の解説】
当初、労基法しか勉強していない私は、直接払いの原則があるから当たり前じゃん、と感じました。しかし、よくよく判例を読めば、「賃金債権の譲渡」と「直接払いの原則」と、どっちを優先するべきなのかは考え込んでしまうところです。
そもそもAさんが悪いことをしたその賠償で、賃金債権をBさんに渡したのです。その債権の具現たる退職金を悪いことをしたAさんに支払うことがどーなのよ?と、みなさんも思われるのではないでしょうか。
判決は賃金債権を譲渡すること自体は有効であると判示していますが、譲渡が有効なのにそのお金をBさんが直接貰えない、というのは矛盾していると私は思います。
立法で賃金債権譲渡を禁止とするか、双方合意に基づく契約行為なのだから、直接払いしなくてもその違法性は阻却されると解釈した方が、個人的にはすっきりします。
しかしながら判例も学説も、賃金債権譲渡は有効で、かつ賃金の直接払いを優先するということで理論的決着を得ている、ということですから、罰則付の強行規定がいかに強いかということを示した判例とも言えそうです。
結局、賃金と呼ばれるものは、判例法理上、直接払いの原則が優先されることになっています。ですから、裁判所の差し押さえは別として、例えば労働者がお金を借りている金融機関などの催促に応じて、賃金をそっちに廻してしまうと、仮に労働者側から訴えられた場合、裁判には耐えられないということになります。
実際には、その金融機関と労働者が賃金債権の譲渡について合意していれば、トラブルになることはないかも知れませんが、人事労務実務上は、第三者に賃金支払いをすることは、避けるべきでしょう。 |
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